LGBTQクリエイティブディレクターに聞く、ダイバーシティ・ブランディング

6月は街中でレインボーフラッグを目にする日がないほど

6月はプライド月間です。24日に発表されたニューヨーク州の緊急事態宣言が解除されたこともあり、レインボーカラーで彩られたマンハッタンの街中は昨年以上に活気に溢れていました。昨年5月に起こったジョージ・フロイド氏の死亡事件に端を発したBlack Lives Matterのムーブメント、アジア人襲撃事件が相次いだAsian Hateの問題など、アメリカでは新型コロナウイルスの発生を機に社会的マイノリティへの差別が顕在化し、差別撤廃へ向けマイノリティが立ち上がっています。

今回のAYDEA Blogでは、フランス・パリにある、AYDEAパートナー・エージェンシーThe Norm Queer Agencyというクリエイティブ・エージェンシーでクリエイティブディレクターとして活躍するErick RicardoさんにLGBTQを含むダイバーシティ・ブランディングについて話を伺いました。フランスのラグジュアリーブランド「ジバンシィ」や「シャネル」の広告制作でクリエイティブにも携わるエリックさん。ファッション先進国ではLGBTQコミュニティを始め、マイノリティを巻き込んだブランディングをどのように行っているのでしょうか。

Text by Reiko Suga

エリックさんの現在のお仕事について教えてください

私自身はゲイなのですが、十数年前からパリを拠点にLGBTQなどの多様性のあるコミュニティを生かしたインクルーシブなブランディングを手がけています。シャネルのスタジオで4年間働いた経験もありますが、現在はクリエイティブ・エージェンシーを立ち上げて活動しています。具体的にはブランドの広告を作る際やブランディング戦略を考えるときに、ジェンダーニュートラルのモデルを起用したり、レディースファーストというイメージが強いブランドの中でメンズのブランディングのポジションを考えたりしています。現在はジバンシィの広告のクリエイティブも担当しているので、多様性のあるモデルの起用をブランディングとして提案するなどしています。ダイバーシティー&インクルージョンの流れが強まってきている世の中なので、歴史あるファッションのラグジュアリーブランドが多様性をどのようにブランディングに取り込んでいくかということは重要になっています。

歴史のあるフランスのファッション業界で多様性を取り入れていくことは容易ではないのでは?

フランスには10年以上住んでいるのですが、もともとアメリカで生まれ育ったこともあり、フランスの位置付けやアメリカと比較してどれだけダイバーシティな社会なのかということはお話ができます。歴史的に見てLGBTQのムーブメントはアメリカで始まったこともあり、LGBTQコミュニティを筆頭に、ダイバーシティな社会を受け入れる姿勢はアメリカは世界的に見てもパイオニアです。10〜15年前にアメリカではすでにさまざまな人種、性的指向を受け入れるブランディングやコミュニケーションがスタートしていて、メディアでもフォーカスをされていました。それに比べるとフランスは少し遅れている印象です。

フランスは歴史の長いファッションブランドも多く、伝統があるだけに変わることが難しい場合もあります。それは日本の企業でもイメージがしやすいと思います。そういう点から見ても、フランスのラグジュアリーブランドは非常に遅れているので、グローバルで通用するブランディングを私たちが考えています。

プライド月間中は「CHANEL Beauty」のInstagramでも積極的にメンズビューティーをアピールしています。The Norm Queer Agencyがクリエイティブを担当。

老舗ラグジュアリーブランドの生き残りにも、ダイバーシティなブランディングは必須

歴史のあるブランドがLGBTQのようなダイバーシティを受け入れることは難しいことでもありますが、社会的に影響力があるブランドだけに、こうした提案を受け入れることはブランドに取ってもいい機会になります。社会的なムーブメントを引っ張っていく姿勢を見せることで新たな顧客の獲得にも繋がります。例えばジバンシィがゲイのモデルを起用することでゲイコミュニティからのサポートを得られるだけでなく、大きく価値観の変わってきている世の中に寄り添っているというブランドの立ち位置を表現することができます。

The Norm Queer Agencyが担当する「Givenchy Beauty」ではプライド月間中の売り上げの一部、$128,000(約1,100万円)をMag Junesという団体へ寄付しています。

まだまだダイバーシティなブランディングに慣れていない顧客に向け、クリエイティブ制作をする際に気をつけていることはありますか?

コンサルをする際に、LGBTQやダイバーシティを考えたブランディングを構築することはブランドにとって長期的な投資になるということを伝える必要があります。顧客の意識が高くなっている今、LGBTQがメインストリームでなくとも、ダイバーシティ&インクルージョンの流れは来ています。ただ単にLGBTQのモデルを起用するなど、うわべだけのストーリーではなく、根本的にブランドにとって何が必要かを真摯に伝えることでブランドと顧客の信頼関係を築くことができます。“Love Brand”という言葉があるのですが、顧客に愛されるブランドは長期的な投資があってこそ。時代の流れを汲んだブランディングをしていかないと取り残されていくし、ブランドも変わっていかないといけないんです。

LGBTQという言葉が一人歩きしていると感じることがありますが、オーセンティックなストーリーテリングをする老舗のラグジュアリーブランドが、うわべだけにならないブランディングをするには何が必要ですか?

非常に納得のいく質問です。老舗のラグジュアリーブランドが突然商品のパッケージにレインボーをかけてプライド月間です!とプロモーションをしたところで、本当にLGBTQコミュニティをサポートしているのかと疑われます。より、本物志向でダイバーシティなコミュニティに投資しているかと見せることは、例えばLGBTQをサポートしている団体へ寄付をする、発信力のあるLGBTQの著名人をブランドのアンバサダーなどにしてストーリーを発信してもらう、LGBTQへの知識があるクリエイティブ・エージェンシーと協業してクリエイティブの制作などを行う、などさまざまなアプローチがあります。LGBTQに対して本当に理解のある人たちと組むことで、LGBTQコミィニティに認めてもらうことは、オーセンティックなブランドイメージを発信するブランドの本物だけれど、新たな挑戦だと思います。

「CHANEL」のInstagramでもプライド限定商品を披露

ダイバーシティな社会の実現に向け、日本はどう変わっていくべきでしょうか?

私はそこまで日本社会に対して知見があるわけではないのですが、日本のブランドやメディアもどんどんインクルーシブにこうした問題を取り上げていったほうがいいと思います。中国のビューティーブランドは今世界的に見てももの凄く売り上げを伸ばしています。私も一緒に仕事をする機会があるのですが、中国のブランドはメンズビューティーが伸びているので、メンズモデルの起用や、女性ファーストの強いビューティー市場に対してのブランディングが上手だなと感じます。

日本企業の資生堂のグループカンパニー資生堂アメリカズのコーポレートSNSではプライド月間中ににLGBTQコミュニティの社員を登場させるなど、積極的に発信を行っています。まだまだ多様性に対応していくという意味では遅れをとっている日本社会。

グローバルにも通用するようなダイバーシティ&インクルージョンの会社、顧客とのエンゲージメントを今後高めていくには、根本的な理解と長期的な投資という視点を持つ必要があります。
AYDEAはNorm Agencyとタッグを組み、日系企業を対象にグローバルに通用するブランディングやマーケティング支援を行います。ご興味ある方は、hello@aydea.co までお問い合わせお待ちしております。