新たな旅のかたち「マイクロツーリズム」を楽しむ

Photographed by laure Joliet 2018

そろそろ思いっきり旅を楽しみたい!そう思っている人は多いのではないのではないでしょうか。ロックダウンが始まる前、筆者は毎月のように飛行機に乗って世界中を移動していた生活が一転、お家でゆっくり過ごす時間に変わって久しいわけです。しかしながら、先日日本政府が全世界から、3ヶ月以上の中長期にわたり滞在できる在留資格をもつ新規入国者の受け入れを一部再開すると発表したこともあり、ポストコロナの渡航に関して明るい兆しが見えてきたように思います。

まだまだ海外渡航への制限も多く、海外旅行を控える人は多いのですが、新たな旅のスタイルが生まれてきています。日本では7月から観光庁が主軸となり、新型コロナウイルスで冷え込んだ旅行業界支援のため「Go to トラベルキャンペーン」を実施。国が旅行代金の最大5割を負担するという試みを行い、国内旅行の需要を喚起しています。法務省によると2019年の外国人入国者数は3,119万人と過去最高を記録したため、パンデミックによってインバウンド需要にも頼れない今、日本人が日本の良さを再発見すべく国内旅行の支援を促しています。実際日本の田舎を訪れてみると、地元の人たちは外部からの人たちにその土地の魅力をアピールできることを喜び、ビジネスの活性化という観点からも観光客を暖かく迎え入れる体制が整っていたように感じます。

新型コロナウイルスによる被害がいまだに続いているアメリカでも旅行に対する自粛ムードは続くものの、新たな旅の潮流としては“マイクロツーリズム”や“ロードトリップ”というキーワードの旅行が浮上してきています。

米国運輸保安局(TSA)の報告によると、アメリカ各地でロックダウンが始まった3月20日頃から9月半ばまで、アメリカの各空港でTSAのスクリーニングを受けた人の数を測定。その結果、ロックダウン以降3月末までに利用者は急降下し、緩やかながら回復の兆しを見せているものの、9月22日の最新データでは昨年と比べてマイナス69%利用者が減少しています。まだまだコロナウイルスへの感染の危険も考慮してか、飛行機を利用しての旅行は以前のように利用者が戻ってきていないのが現状です。

新型コロナウイルスによって旅は制限されていますが、新たな旅のトレンドとして下記のようなキーワードが挙げられます。

メキシコやカリブ海のリゾートも長期滞在先として人気です。Photo by Pexels

・マイクロツーリズム

自宅から車で2時間ほどで行ける近場での旅行。今まで知らなかった文化や食など、地元の魅力を再発見できるという魅力がある。

・ロードトリップ

マイカーやレンタカーを利用して各地を巡る旅。の感染の危険回避などから交通公共機関を利用する人が減る中、安全面でもロードトリップの人気が出てきている。

・長期滞在

オフィスに行かず、「work from home」で働くスタイルが定着してきた今、これを利用して旅行を兼ねて長期滞在する人が増加。ホテルもそれに合わせたプランなどを販売している。

・リトリート

日常を離れて心身をリセットするリトリート=転地療法が人気を呼んでいる。自然に触れたり、日本では温泉に浸かるなどして日々の疲れをリセットするというもの。

ロサンゼルスにある「Kimpton Everly」。Photo by Kimpton official

旅をしながらローカルビジネスをサポート

公共交通機関を利用しての旅行に代わり、自宅から車で行ける近場の旅行“マイクロツーリズム”が注目を浴びるのは自然な流れでしょう。パンデミック以降、遠出を避ける人が増えたことで、地元の魅力に気づいた人も多いと言います。テレビ広告の配信会社ZypMediaによると、5月の時点で自宅待機の期間に地元の小規模小売店で買い物をするようにしたと回答した人が53%にのぼり、そのうちの68%の人たちが今後も全国チェーンではなく、地元の個人経営のお店からの購入を続けると回答したそうです。こうしたローカルビジネスをサポートする流れから、旅の面でも地元の魅力を再発見するとともに、地元のビジネスを盛り上げていこうという人々が増加しています。

旅行雑誌の米「コンデナスト トラベラー」でも8月末の特集でニューヨークやサンフランシスコ、シカゴ、ヒューストンなどアメリカの主要7都市から日帰りや一泊でも行ける小さな街を紹介しています。もちろんこうした近場の旅行は車で行く人も多く、ロードトリップとマイクロツーリズムの親和性は高いのです。新たに地元の魅力に目を向けながらローカルビジネスを支えて行きたいという今の人々の心理と結びついています。筆者も先日、車でマンハッタンからカナダの国境に近いフィンガーレイクスに行ってきました。ワイナリーが点在するこの地域はニューヨーク州ながらマンハッタンとは別世界。紅葉も綺麗で自然豊かな場所でした。ワインを楽しみながら小規模なワイナリーをサポートしようとお土産として何本かワインを購入。今まではすぐに飛行機に乗って旅に出ていましたが、こうなってみると車で行ける近場にも素敵な場所がたくさんあることに気付かされます。

マンハッタンから4時間ほどでいけるニューヨーク州のフィンガーレイクもロードトリップに適した行き先。

より安全な場所に滞在し、心とカラダを整える

健康やウェルネスにフォーカスをする旅や、心身をリセットするリトリートを目的とした旅もコロナ禍の新たなトレンドです。外出をせずに仕事をし、一日中家で過ごす生活は一人の時間は多いものの、以前よりもストレスを感じている人が多いようです。不安の多い世の中だからこそ、自分と向き合い、セルフケアをするという必要性が謳われています。アメリカではカリフォルニアのビッグサーにある「エサレン研究所」に多くの起業家がリトリートに訪れているように、森林浴をしながらヨガや瞑想、スパでリフレッシュをすることでリセットするというリトリートも今の世相を反映しています。パンデミックによって都市を離れて田舎へ一時避難したり引っ越した人も多く、自然による癒しの効果を実感した人も多いでしょう。アメリカには多くの国立や州立の公園があり、ソーシャルディスタンシングも保てるため、旅行でこうした公園を訪れる人も増えています。

また、パンデミックにより荷物はストレージに詰めてラゲージのみで身軽に生活をするノマドスタイルの生き方にも拍車をかけました。エストニアの「デジタルノマドビザ」やバミューダの「ワーク フロム バミューダ」のように、一定の収入基準を満たせば一年の長期滞在ビザが発給される新たなシステムもこのご時世だからこそと感じます。仕事をしながら旅をする“ワーケーション”を楽しむ生活もニューノーマルな流れです。こうした長期滞在で暮らしながら旅をする人たちも今後当たり前になっていくのかもしれません。

特に富裕層や起業家たちの間では「世界中のどこからでも仕事ができる」という環境の人が多く、渡り鳥のように全米各地の州を一ヶ月ごとに移動するという人もいるようです。アパートは解約し、コンパクトにまとめた荷物とともに各地を転々としながら異なる環境からインスピレーションを得ています。筆者もパンデミックによってニューヨークのアパートを離れ、別の州で過ごしたり、ニューヨークの富裕層の多くが避難したアップステートのハドソンにも滞在しました。今後日本に一時帰国の予定もあり、この生活はいつまで続くのかなと身をもって感じています。ポジティブに考えると、こうした生活は今だからこそできるものであり、新型コロナウイルスは「定住する」という人々の固定観念を完全に崩した出来事でもあります。

日毎に変わる新型コロナウイルスの感染状況などにより、海外旅行の情報も日々アップデートされています。正確にな情報を集めることも旅を楽しむうえで重要なことです。2020年は一時、旅行が完全にストップするという事態に陥ったものの、新たな旅のトレンドも生まれてきています。