コロナ禍のニューノーマルなライフスタイルとは?

 

8月に入り夏真っ盛りを迎えたニューヨークの街はロックダウン中に郊外や別の州に避難していた人たちが戻ってきたこともあるのか、一時期のゴーストタウンのような静けさとは対照的に、一部的に少しずつ活気が戻り始めています。ニューヨーク・タイムズによると、3月から5月の間には約42万人のニューヨーカーが疎開していたようです。筆者もニューヨーク市内から自然豊かな郊外へと避難をしていたので、久しぶりに訪れた活気あるニューヨークの街並みに少したじろいでしまったのも事実。それでも世界一の大都市にパワーが戻ってき始めたことに嬉しく思います。

しかしながらロックダウン以前の生活に戻ることはなく、待ち受けていたのは新しい常識、“ニューノーマル”な生活です。世界の多くの都市でも、従来の常識が覆され、新たな価値観や習慣が当たり前となるニューノーマルな時代を迎えていると思いますが、特にアメリカは世界的にも新型コロナウイルスの感染が未だ上昇傾向にあるので、他の国よりも以前の生活との乖離が激しいのではないかと感じます。ここでは、あらゆる分野で世界のトレンドを牽引するニューヨークを中心に、筆者の目線を混じえたニューノーマルをレポートします。

主に目立ったニューノーマル
①アメリカ人もマスク着用?!マスクファッションのトレンド
②物理的な距離
③交通手段が圧倒的に変化
④ファッション路面店はオープンし始めたが、まだ試着はできないお店が多い

ちょっと寂しい?ソーシャルディスタンシングの徹底

マンハッタンを歩いたり、勇気を出して地下鉄に乗って感じるのは、「みんなマスクを付けている!」というのが率直な感想です。今までアメリカでマスクを付けている人は見なかったし、日本人は花粉症やら風邪をひいたらみんなマスクをつける習慣がありますが、アメリカでマスクを付けているとちょっと変な人のように見られるので今までためらっていました。それが今ではこぞってマスクを着用しています。もちろんそれはいいことで、ニューヨークは世界的にも新型コロナウイルスの被害が大きかったことで感染拡大の防止が徹底されています。マスクを着用しないと入れない店舗も多く、これは確実にパンデミック前には見られなかった光景です。

ソーシャルディスタンシングも喚起されているので、街の至るところに「これだけ間隔を開けてくださいよ」というステッカーや、駅やビルの入り口にはハンドサニタイザーが置かれています。今まで汚いことで有名だったニューヨークの地下鉄では毎夜車両の消毒が行われるようになりました。

レストランも屋外での飲食は可能になったので、外で食事を楽しむ夏ならではの光景を見ることができますが、座席は通常の50%に減らさないといけないため、席と席の間に間隔が取られているほかパーテーションで区切られているお店も多いです。屋外の個室席が並んでいる様子は今まで見たことのない光景です。秋から冬に向けてニューヨークは寒さが増してくるのでレストランの屋内での飲食が可能になることを願うばかり。筆者の通う美容室では入店前に検温チェックがあり、ほとんどの美容室やネイルサロンでも各ゲストが座る座席がパーテーションで仕切られている状態。

ショッピングのあり方も当然変化しています。お店はオープンし始めているものの、ソーシャルディスタンシングを保つために入店制限をして店内に滞在する客数を調整しているお店が多く見られます。ソーホーにある「Detox Market」では1人ずつしか店内に入ることができず、お店の外で入店を待つお客さんの姿がありました。スタッフに話を聞いてみると、「私たちも何が正解かわからないの。でも、お客様にとって安全だと思えることをトライしていくしかない」との回答。誰も新型コロナウイルスなんて今まで知らないわけですし、当然のこと。ニューノーマルな生活は誰にだって手探りです。何軒かファッション雑貨ショップでの買い物も試みたのですが、試着ができないお店がほとんどです。「COS」では「試着ができないので全部購入してください。家で試着をして気に入らなければ返品してください」との回答。こちらも今まででは考えられない事態に仕方ないと納得しながらも戸惑ってしまった自分がいました。

これがニューノーマル。「今までと違って当たり前」と思い、柔軟に取り入れるしかありません。

仕方のないこととはわかっていてもソーシャルディスタンシングが徹底されるとそもそも人に会う機会は減り、会っても握手やハグはなし。人と人の接点や温もりが感じられにくくなり、なんだか寂しい気持ちがします。感染を危惧して色々なものがデジタル化され、簡素化される。何気ない立ち話から生まれるひらめきや、何気ない出会いから生まれるチャンスも減ってしまうのでしょうか。

ニューヨークでも日本でも、新型コロナウイルスの蔓延によって出店が加速しているのが無人ショップです。セブンイレブンでは以前から人件費削減のため無人レジの導入が進めていましたが、JR東日本が一店にカメラ50台を配置し無人化を実現させた「Touch and Go」が高輪ゲートウェイ駅にオープンしました。一度に入店できる人数は7人まででカメラがユーザーの取った商品を感知し、レジでお会計されるそう。一度に7人という人数も今の状態なら混み合うことなく安心です。

ニューヨークのいくつかのレストランではスタッフとゲストの接点を極力減らすべく、QRコードを読み取ることでメニューのオーダーから支払いまでを行うシステムが導入されています。ニューヨークのレストラン「ジャン・ジョルジュ」でもこのシステムを取り入れるそうです。ニューヨーカーの多くがロックダウン以降に疎開しているニューヨーク州のアップステートエリアにも24時間営業の精肉の無人ショップを見かけました。こちらも支払いはQRコードで行うスタイルですが、お肉まで無人で販売する場所ができているとは面白いもので、今後も無人化での食料品の販売が進む予感。

ニューノーマルで加速、変化したこと
・デジタル化による利便性
ロックダウンによって通信手段を一層オンラインに頼るように。会議もショッピングも映画もセミナーもすべてオンライン上にシフトされました。

・新しいコミュニケーションの形
どこにいても仕事ができる時代は世界中の人との繋がりもオンライン上で完結します。飲みながら語り合う、仕事をしたい相手を飲みながら口説き落とす、という方法はもはや古い?

・デジタル化 で実現した スローライフ
デジタル化が一気に加速したからこそ、会議はオンライン上で行い、田舎に移住してアウトドアを楽しんだり畑仕事を楽しんだりというスローライフに開眼する人たちも。

テクノロジーに逆行する、ヘルシーな生活

リモートワーク やネットショッピングなど、テクノロジーを使ってどこにいても仕事ができる環境、どこにいても買い物ができる状況が当たり前となった今回のパンデミック。テクノロジーの進化による情報過多に逆行するかのように、自然に帰る、スローなライフスタイル、自分を見つめ直しヘルシーな生活にシフトチェンジする人も多くなったと感じます。

やはり感染の危険から未だにUberやLyftなどのシェアライドを避ける人も多いです。最近のニューヨークの地下鉄は混雑状況が戻りつつあるため、ナーバスになることもしばしば。季節柄と人混みを避けるため、Citiバイクに代表されるシェアバイクの利用者が急増しています。街を歩いていると、Citiバイクスタンドが空っぽという光景をよく目にします。颯爽と風を切って自転車をこぐ人のブランドを見るとシェアバイクなんてこともざらです。この季節はソーシャルディスタンシングを確保できるハイキングも人気です。そんな影響から“アスレジャー”を提案するブランドは苦戦を強いられるアパレル業界でも軒並み好調です。そのあたりは8月12日あたりのAYDEAインスタグラムの投稿でも話ていますのでご覧ください。

ショッピングの楽しさも変わる?

ファッションのあり方も確実にニューノーマルな時代に突入したと感じます。まずはファッションショーの発表の仕方が以前では考えられなかった方法になったことに驚かされました。筆者も以前は海外のファッションショーをレポートしていた経験があったため、いわゆる老舗のパリ・オートクチュール・コレクションなどがデジタルファッションウィークを開催したことに愕然としてしまいました。ある種、海外ファッションショーは世界の有名雑誌のエディターや有名ショップのバイヤーが参加できる特権的な場であったことに加え、ショーの世界感を体感したり実際の商品に触ったりせずして洋服を顧客にオススメできるのかという疑問が単純にありました。

数年前からファッションショーをリアルタイムで配信するブランドが増えてきましたが、今回のデジタルファッションウィークのほとんどは一般の方も簡単に視聴ができ、多くのブランドが映像とデザインを駆使してブランドの世界観を伝えているため、洋服がほとんど見えない!なんてブランドもざらにありました。洋服はクオリティではなく世界観で選ぶ時代?そんな考えが頭に浮かぶとともに、パンデミックにより、時代は確実に変わってきているようです。「ルイ・ヴィトン」のメンズもシーズンレス化を発表し、環境問題が懸念されているファッション産業もラグジュアリーブランドがシーズンレス化を行うことで環境負荷の軽減の流れも活発化しています。

パンデミックによって自宅から買い物を楽しむというライフスタイルが当たり前になったのは周知の事実です。店舗に行かずとも、サブスクリプション ボックスの中身をドキドキしながら開ける時代です。今や画面越しにパリやミラノのファッションショーを視聴でき、ラグジュアリーブランドの洋服を5thアベニューで購入するステータスよりも、インターネットを通してブランドのことを知り、生産背景や従業員の雇用環境などに対して納得できるブランドを買う時代。それがさらに現実のものとなっています。

今まで考えもしなかったニューノーマルこそが今の時代です。
そんな時代を楽しまないといけませんね。