今まで“当たり前でなかったこと”が“当たり前”へと突然方向転換をした激動の2020年。変化の激しい潮流が確固たる価値観として根付き、勢いを増してくるのが2021年ではないでしょうか。靄に包まれていた社会的な課題がはっきりとした形となって出てきた今、2021年を読み解くトレンドキーワードをご紹介します。text by / Reiko Suga
どうなる?バイデン政権がもたらす未来へのステップ
昨年は予期せぬ新型コロナウイルスの蔓延でStay Homeを強いられた私たちは、大気汚染の改善や自分たちが排出するゴミの消費量の“見える化”などを目の当たりにし、小さなことからでも環境問題に対峙するきっかけを得ることになりました。
昨年5月にはジョージ・フロイド氏殺害に端を発したBlackLives Matterのムーブメントも巻き起こり、今まで課題となっていた人種差別の問題が崩壊したダムのように一気に爆発した印象です。新型コロナウイルスは私たちが先延ばしにしていた問題を直視せよ、と言っているかのようにさまざまな人々の心理を動かしました。
アメリカ国民が一喜一憂した昨年11月の大統領選挙によってジョー・バイデン新大統領が誕生しました。パリ協定への復帰やその他環境対策の強化、移民問題に人種的マイノリティへの対策など、バイデン氏の打ち出す政策を見ていると、2021年を読み解くうえでのキーワードや世の中の力強い潮流は、バイデン氏の当選が必然だったかのようにも感じられます。それほど今、変化の求められる世の中に向かって多くの人々が一丸となっており、こうした潮流をバイデン政権が後押しすることが望まれるからです。
多様性のある社会のあり方が一層、顕在化する
・人々が集まる集団は「D&I」が当たり前に
さまざまな企業や人材開発で「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が使われていますが、組織の中でダイバーシティを強め、個人が個性を活かしながら活躍できる環境を作るというものです。BlackLives Matterのムーブメント以降、白人CEOがステップダウンし、ブラックの新CEOが誕生したり、大手企業の幹部におけるダイバシティの比率が公表されるなど、今後は会社などの組織での多様性が以前よりも求められ、それが組織を円滑に回す多様な人々の集まりに変化していくとされています。
・「フェムテック」に見る、女性が女性らしく生きられる社会
「ジェンダーギャップ指数2020」において日本は153ヵ国中121位と先進国の中では最下位という悲しい順位です。吸水ショーツに代表されるフェムテックブランドが台頭し、昨年は“フェムテック元年”と呼ばれました。女性特有の悩みをオープンに解決していこうというように、性別によって差別や区別を受けない、“産む性”である女性が輝きやすい社会になるよう、男性の育児休暇を当たり前に導入するなど企業も制度を整えていく流れが強まっていくでしょう。
ファッションで“着飾る”ということは“今の社会を纏う”ということ
アメリアのビジネスファッションサイト「ビジネス オブ ファッション」とマッキンゼー&カンパニーが合同で行なっている調査「The state of fashion 2021」によると、ファッション業界の売り上げがパンデミック前の基準に戻るのは2022年の第三四半期と予想され、アメリカに関しては2023年の第一四半期まで回復が遅れると見込まれています。
ただでさえ環境に対して負荷の多いと目の敵にされがちなファッション業界は、この氷河期に企業としての環境問題へのコミットが急務とされました。環境問題への取り組みだけでなく、消費者は政治的な立場、人種問題への企業としての対応なども含めて購買の指針としていることは明確です。今まで以上に、ファッションを楽しむという感覚的だった概念が、「自分自身の立ち位置や社会でのあり方を表明する」という方向性にシフトしています。
・「アップサイクル」で新たな価値を吹き込む
持続可能なものづくりの可能性として注目されているのがアップサイクルです。リサイクルやリユースとは異なり、元の製品の特徴を生かし、デザインなどの新たな付加価値を加えることで価値の高いものを生み出すというもの。服を作る生産過程で発生する廃棄生地の85%は処分され、15%が別の商品として生まれ変わるというアパレル業界の現状。最近では「アクネ スタジオ」が余った生地や素材のみを使用して作成したリサイクルレザー&デニムのコレクションを発表するなど、循環型のモデルを各ブランドが取り組んでいます。
・ファッションの“シーズンレス”化の加速
新型コロナウイルスにより、最新コレクションの洋服に身を包むというステータスが失われつつあり、消費者の環境意識の高まりに加え、ファッション業界もコレクションの発表サイクルを見直すという動きが出てきています。「ルイ・ヴィトン」のメンズは春夏、秋冬という年に2回行なっていた大きなローンチをシーズンレスという形に移行。「グッチ」もプレコレクションなど、最大年に5回行なっていたファッションショーを2回に減らすことを発表するなど、アパレル業界のシーズンごとに新コレクションを発表するという慣習が覆されつつあります。
・自分にとって価値のある“Less is more”を大切にする
ロックダウン期間中にクローゼットの中身を整理・処分した人は多いのではないでしょうか。トレンドに左右されるのではなくいいものを長く着たい、お気に入りの洋服を最低限揃えておきたいと考え、量よりも質のいい物を長く持つことが価値と見なされる傾向が強まっています。
・袖を通す服の生産背景は“労働環境にも透明性を”
人種問題や環境問題など、混沌とした世の中だからこそ、ブランドのポリシーや政治的な立場、労働環境に対しての透明性を消費者はますます求めています。売り上げの一部を人種差別問題を支援する団体Equal Justice Initiativeなどに寄付したり、途上国のものづくり支援をするブランドも増えてきています。サザビーリーグが運営するD2Cジュアエリーブランドの「アルティーダ ウード」は売り上げの一部を途上国の女性支援に充てるなど、継続的にチャリティー活動を行なっています。
他にも、そもそもゴミを出さない「ゼロウェイスト」や特殊な素材を使うことにより、匂いなどを抑えて洗濯回数を減らす「ウォッシュレス」素材を用いた洋服などのキーワードも覚えておきたいところです。
食の分野でもゼロウェイストということで、生ゴミの肥料化=コンポスティングを行う人が今後増えてくるでしょう。ニューヨーク市内でも2011年からコンポスティングのプロジェクトがスタートし、コロナの影響で数は制限されているものの、現在も市内の公園にポストが設置されています。
食&ウェルネスも心地よい、地球に優しいものを求めて
何かとストレスの多かった2020年を経験し、私たちの体は直感的に心地いいものや安らぎを求めています。親和性の高い食とウェルネスのトレンドでもその傾向が強まるでしょう。
・安定を取り戻すためのウェルネスと食事
自分の内側にフォーカスし、健康で安定した心を維持したいと考えている人が増えています。いつでも情報が手に入る時代だからこそネガティブな情報も多く、時には意図的に情報を断ち切るデジタルデトックスも効果的です。リトリートのように、自然の中で人々と触れ合うことで癒しを得る「マインドフルネス セラピー」も注目されています。デジタルデトックスをし、自然に触れ合うことで直感が磨かれて来ます。食事は身体が心地いと思える素材を生かした食材、スキンケアもシンプルなルーティーンへと集約されてくるでしょう。
・すべては環境と人々のために
2021年の食のトレンドは環境問題との結びつきも強く、前述したように持続可能なアップサイクルの食品や、大きさや形の不揃いによって廃棄されるはずだった食材を好んで購入する人も増えるはずです。2040年には消費される肉の60%がプラントベースになるとも予測され、ますます環境負荷の少ない植物由来の食品が増えて来ています。ナッツから作られるオイル、フルーツや野菜を原料にしたジャーキーもトレンドの予感。
定住しないライフスタイルもますます加速
ワークフロムホームが当たり前となった今、“拠点”というものが存在しなくなってくるのかもしれません。
・大都市一極集中型の崩壊
ニューヨークタイムズ紙が発表したパンデミック直後の昨年3〜5月にニューヨークを後にした人たちは45万人と報じられていますが、今冬のニューヨークはさらに人が流出し、2〜3年は以前のように人が戻らないのではとも言われています。富裕層のニューヨーカーたちはセカンドハウスとの二拠点生活、日本でも東京を離れ、これを機に田舎暮らしや軽井沢と東京の二拠点生活をする人たちが増えているようです。大都市一極集中型ではなくなることで地方経済の活性化も期待されています。
・ワーケーションで旅をしながら暮らす
定住しない、物を所有しない時代を象徴するのが“ワーケーション”です。旅をしながら仕事をするというWork + Vacationを掛け合わせたこの造語は風のように生きる現代人の新しいライフスタイルです。カリブ海やヨーロッパの一部の国ではこうしたワーケーションをしながら働く人々を支援するデジタルノマドビザを発給しています。プライベートと仕事の最低限の荷物を持って拠点を定めずに生活をする人たちが市民権を得ていく日も近いでしょう。
2021年がより良い方向へと向かっていくよう、個人個人の意識が問われる社会になっていくことでしょう。