東京オリンピックがついに開幕! 制約のある環境下で生まれる新たなデジタル・コミュニケーション

新型コロナウイルスの影響で一年延期となった東京オリンピックが23日(現地)ついに開幕。未だワクチンの接種率が13%と先進国の中では格段に遅れを取っている日本は、緊急事態宣言下でのオリンピック開催となりました。開催前から新型コロナウイルスに対する安全性への懸念や大会関係組織サイドの失言問題など、何かと問題点が持ち上がっているオリンピックも無事スタートし、困難な時期だからこそ、アスリートの勇姿を楽しみにしている人も多いと思います。無観客試合が決定するなど、前代未聞のオリンピックは生で声援を送ることができないオーディエンスに対し、テクノロジーを駆使してどういったコミュニケーションを提案していくのでしょうか。

Text by Reiko Suga

会場のすぐ外では大会中止を求める抗議が行われるなど、前代未聞のスタートとなりました。

巨額な放映権が動く、テレビ放送がオリンピックの主要な動画配信手段

若年層のテレビ離れが深刻化しているのは明らかですが、昨年発表されたニールセンのTotal Audience Reportによると、未だテレビはアメリカの成人にもっとも見られているメディアとなっています。しかしながら世代によってその視聴率の差は歴然。65歳以上が一日7時間以上をテレビの前で過ごすのに比べ、18〜34歳は1時間37分。若い世代はNetflixやAmazon Prime Videoなどのストリーミングサービスを多く利用しています。日本でも同様の報告結果が出ており、若年層がテレビを見なくなってきているのは明らかです。

こうした傾向は疑いようのない事実ですが、2021年の東京オリンピックでも、競技の放映はテレビがメインの動画配信手段として世界中にその熱き戦いを流していくことになります。SNSの発達やストリーミングサービスの台頭によって瞬時に世界中の出来事を入手できる時代ですが、各国ともにテレビ局が争奪戦を繰り広げています。

アメリカではコムキャスト傘下のNBCユニバーサルが76億5000万ドルの大金を支払い、2032年までオリンピックの放映権をすでに獲得しています。同社は昨年1月に新ストリーミングサービスの「ピーコック」をスタートしましたが、今回のオリンピックでもピーコックを通じて一部の種目を除き、無料で動画配信を行っていくそう。NBCの五輪放映時間は7000時間にも及ぶと言われ、この数字は2016年のリオデジャネイロオリンピックを超えるもので、前例がない数字。それだけ今回の東京オリンピックでは、実際に会場に足を運べない分、動画配信の時間も類を見ない数字となっています。

米国の放映権はIOCの主要な収入源になっていますが、NBCユニバーサルも広告主から資金を集めるとともに、ピーコックのサービスを全世界に見せる格好の機会となります。さまざまな放映手段がある昨今においても、政治的な理由、オーディエンスがさまざまな世代にまたがることなども踏まえ、今後もオリンピックの放映に関してはテレビが主要な動画配信手段となっていきそうです。

IntelのTrue Viewカメラはバスケットボールの試合で投入され、アリーナを360度高性能カメラで写すなど、高度なカメラ技術で観客を楽しませる。Photo by OBS

生観戦ができないことで生まれる新たなコミュニケーション

無観客のオリンピックということで会場に足を運ぶことができないため、デジタルを駆使したさまざまなコミュニケーションが生まれるとともに、最新テクノロジーを駆使した映像で、今までにない臨場感でテレビ観戦を楽しむことができます。

IOCとオリンピック放送機構(OBS)は、東京オリンピック組織委員会と協力し、“Share the Passion”を掲げ、一連のデジタルツールを作成しています。「Fan Video Matrix」では、自分が応援し、手を叩いている画像などが5秒間セルフィーとして表示され、皆が一体となって応援をできる様子を公開しています。また、同サイトではオリンピックに関する疑問をクイズ形式で出題し、そこに参加をすることで新たに懸賞が与えられるなど、参加型の施策を提供しています。一部の競技会場では、アスリートが試合直後に家族や友人と試合直後の興奮冷め遣らぬ状態でコンタクトをすることができるサービスも開始しています。

他にもIntelとAribabaとで共同開発された3D追跡テクノロジーでは、AIとコンピュータービジョンを使用。陸上の短距離走の選手が最高スピードに達した時点を測定し、レース統計を通じて、さまざまな分析を行うなど、最新技術を投じてスポーツの美しい瞬間を切り取っています。

無観客試合では恒例となってきたデジタル参加型のオーディエンス。Photo by OBS

デジタルを駆使し、まるでそこにいるかのような体験を

・IOCとオリンピック放送機構(OBS)は、東京オリンピック組織委員会と協力し、オーディエンスが自撮り機能を活用して選手や国を応援できるような参加型の施策を実施

・最新技術を駆使したことで、映像美を追求。オーディエンスにクオリティの高い映像を届けることができる

・選手サイド、観客サイドに立った参加型のデジタル施策を実施

このように、無観客観戦に対応し、日本に入国した数少ない外国人が積極的にオリンピックの情報発信を行っています。世界中でそうした尽力がありながらも、開催国日本のオリンピック組織委員会は組織を構成する人々の年齢層が高く、アナログ化が顕著なのも事実。オリンピック公式のソーシャルメディアなどは活発化していない印象が見受けられます。

東京オリンピックは“エコ オリンピック”?

今回の東京オリンピックは“エコオリンピック”と呼ばれるほど、環境に配慮した取り組みが行われているということも忘れてはいけません。東京オリンピック組織委員会スポークスマンの方によると、東京オリンピックが環境に配慮した取り組みを行っているオリンピックなのかということが伺えます。

・日本選手団のユニフォームは、今まで着られなくなった服をリサイクルしたもの

・オリンピックで使用する施設は新たに建築するのではなく、昔からあるものを上手に使う

・メダルは使用をしなくなった金、銀、銅より生成

・表彰台は使用しなくなったプラスチックを使用

上記は一部の例ではないものの、エコを意識したオリンピックということが一般に伝わっていないことが悲しい現状ではあります。

サステナビリティ化、デジタル化など、現代の流れを汲み取りながらも、ウイルスによってまだまだ不安を抱えたまま開幕を迎えた前代未聞のオリンピック。手探りながらも、今まで不可能だったことを可能にできる、チャンスに溢れた大会になることでしょう。

AYDEA Blogでは毎月世の中のトレンドを考察し、情報発信を行っています。