米国におけるWomen’s monthの企業の取り組み

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Text by Miho Tabaru

毎日色々なニュースが飛び込んでくる中、今月初めに国際女性デーがあった事も、3月一杯は女性史月間とされている事も既に忘れられているのではないだろうか。このような特別な期間は、改めて女性の権利や男女平等について、もしくはいかなる差別について考える良い機会だが、そもそもこれらの社会課題は365日毎日考えて協議されて改善すべき事である。

米国の「ジェンダーギャップ指数ランキング」は世界53位、その中でも「女性の経済への参加と機会」は26位である。日本の「ジェンダーギャップ指数ランキング」は121位、「女性の経済への参加と機会」は115位と、その差は大きい。この「経済への参加と機会」の差を見ると、ビジネスへの経営判断などにおいて日本では女性の関りが圧倒的に少ない事が明らかだが、それが国際女性デーや女性史月間に対する企業の取り組みにも反映されている形だ。

簡潔に言うと、日本におけるブランドのメッセージや取り組みは表面的かつ一時的。米国におけるブランドのメッセージや取り組みは問題解決型で長期的なものが多い。

この違いは、女性の経営判断への関与と共に、もちろん文化や生活者行動の違いによるものでもある。今回に限らず、昨年起こったBlack Lives Matterムーブメントの際も、大統領選の時などもアメリカの企業は姿勢や思想を常に発信し、真に社会やコミュニティ改善のための取り組みを生活者に向けて行っている。発信や行動をしないことは、問題に無関心である事と同等だと生活者からは受け取られてしまうし、そのような企業は特にジェネレーション Z世代など若い世代からは支持されないので、米国市場で生き残っていくためにはブランドの社会的立場を示すことが必須事項でもあるからだ。

早速、米国市場でのファッション業界における国際女性デーや女性史月間の取り組み事例についていくつか共有したい。

・Tory Burch (トリーバーチ)

Tory Burchは、2004年にNYで生まれた米国ライフスタイルブランドで、世界各地に300以上の店舗をもつ。創設者のTory Burchは、もともと女性の社会進出と女性起業家の支援に積極的で、トリーバーチ財団を2009年に設立し10年以上も#EMBRACEAMBITIONというキャンペーンなどを通じて女性の起業を推進している。

そのようなブランドが3月8日から1年間のプログラムでローンチしたのは、Empowered Womenキャンペーン。

Women’s Empowerment | International Women’s Day | Tory Burch

Tell us about a woman, anywhere in the world, who is embracing her ambition and making a change. We will choose one amazing woman a month — and she will receive $5000 to give to a non-profit of her choice through the Tory Burch Foundation.

自身の周囲で、社会やコミュニティに対して良いインパクトを与えている女性をウェブサイトからノミネートする事が出来る。その中から、毎月1名の女性が選出され、トリーバーチ財団から$5000を、その女性が活動する非営利団体へ贈られる、というキャンペーンだ。

第一弾としてノミネートされている女性たちは、メンタルヘルス、小児科、ファミリーサポート、気候変動、ヘルスケア領域で活動する一般の女性達。コロナ下で子供の精神状態や家庭内暴力の問題、環境問題など、現在緊急で解決しなければならないイシューの第一線でいづれも活躍する女性達だ。

このキャンペーンは、Upworthyというエージェンシーとのパートナーシップで実現されたものだが、米国では社会問題などに対して企業がどのように生活者へ向けてストーリーテリングをし、マーケティングなどのキャンペーンとして取り組みを行うかに特化したUpworthyのような企業が存在している事も不思議ではない。

また、それだけではなく店舗での施策としては、3月8日~31日の間NYのハドソンヤードにあるTory Burchの店舗で購入された金額の10%をGirls Inc. NYC Non profit education | Girls Inc. of New York City | United States (girlsincnyc.org)という非営利団体へ寄付している。Girls Inc. NYは、多感な6歳~18歳の女の子達がたくましく自立した一人の女性として健康に安全に育つようなプログラムを提供している。

・H&M

H&Mのみならず、下記の例に挙げた写真のように、米国の多くの企業がブラックownedブランド(黒人がオーナーのブランド)に販売スペースを一時確保している店舗が急増しているが、H&Mは黒人と女性の問題を掛け合わせた施策として1年間のプログラムを国際女性デーから開始した。

2020年12月のHadson Yard Forum by b8taで撮影
2020年12月のHadson Yard Forum by b8taで撮影
2020年12月のHadson Yard Forum by b8taで撮影

米国では、黒人女性がオーナーのビジネスの数は増加しているにも関わらず、年間売上高は全ての女性オーナービジネスの5分の1との事。この問題をビジネス教育プログラムやネットワーキング、財源の機会や露出サポートをする事で解決していく目的でBuy From a Black Woman (Buy From A Black Woman)という非営利団体が2016年に設立された。現在は全米で500以上の黒人女性オーナーがこのプラットフォームに登録している。

H&M USAでは、この非営利団体と2021年を通じて様々なスポンサーシップや活動を通じて、黒人女性とそのビジネスの繁栄を支援し、最終的にはコミュニティや経済が繁栄する目的で取り組みを開始した。下記の様に年間プログラムが実施される予定だ。

1.1,600万人のH&Mロイヤリティー会員デーでの売り上げの一部を寄付
2.夏にはBlack Womenインスパイヤ― ツアーのスポンサーとなり、全米のH&M店舗を利用して黒人女性のビジネスに焦点を当てる
3.秋には10週間の黒人女性ビジネスアクセレレータープログラムをスポンサーし、資金調達方法も含めて様々な方法で継続的なビジネスの成長が得られるようにエキスパートを通しトレーニングを実施する
4.H&M US社内でも、Buy From a Black Womenのプラットフォームに登録し、ネットワークを広げたい社員を支援する

・Levi’s

Levi’sでは、2020年1月よりBeauty of Becomingという6か月にもわたるキャンペーンを実施中だ。女性史月間以前より始めていたキャンペーンではあるが、この半年の間に、Black History MonthやWomen’s history month, Water dayなど女性のみではなく性別、人種、身体的特徴、職種などの差別、そして環境問題などのトピックを連続して取り上げている。

Naomi OsakaやJaden Smithなども広告塔となっているが、それぞれの課題に対して立ち向かい何かを達成している多様な人達の言葉で “14歳の自分に対して伝える言葉は?” という問いでEmpowermentのメッセージを店舗およびオンラインにて伝えている。

Levi’s® Beauty of Becoming for Gender Equality | Off The Cuff

A photo of portraits of the women in the Beauty of Becoming campaign. From left to right, Willow Smith, Xiye Bastida, Oge Egbuono, Brandon Flynn, and Dolores Huerta

写真はタイムズスクエアのNY旗艦店のものだが、店舗内の一番トラフィックが多い場所、つまり売り上げが一番取れる場所を広々と使ってブランドメッセージを出している。

この様な事例から見て取れるように、米国での取り組みは人々に勇気を与え行動に繋げ、社会変革の種となるようなものが多い。

比較して、日本での取り組みを挙げてみると
・店舗でミモザの花を先着50名にプレゼント
・週替わりでインフルエンサーやセレブの店頭でのトークショー

など、店頭へのトラッフィク誘導として国際女性デーが使用されているケースが多い。表面的な取り組みだけであれば、コストや環境の事を考えて実行しないほうが良い。店舗を訪れ1本の花をプレゼントされたとしても、その企業の事を好きにも嫌いにもならないし、その花目当てに店舗にわざわざ足を運びもしない。ましてや、女性差別についての問題解決へ向けての行動につながるだろうか?

店頭以外の事例としては、企業が本来今までやるべきだった商品の製造工場の女性たちへの教育や支援といった取り組みをこの国際女性デーに合わせて合わせて発表する、といった例も見られた。

日本と米国でのジェンダーや多様性に対する問題意識の差は大きいと言わざるを得ない。日本ブランドが米国でのビジネス成功の鍵となる一つは、企業の人格の確立と発信力、問題解決の為の行動を企業姿勢として見せていくことではなかろうか。